古代の風より。3


バスは走る。
陽が落ちた山あいの中は闇に包まれ、この世界の唯一の灯りではないか、と思わせる光がバスの中から漏れている。
「先生……」
中山京子は唐木を見た。
「先生に助けていただきました……」
母娘の姿は既にない。いや……最初からいなかった、と言うべきか。
「……迂闊だった……俺としたことが……」
唐木の表情は冴えない。
「もしかしたら……とおもったのだが確信が持てなかった」
「私を……呼んでいる、ということですか?」
「……占いに秀でてる人間はいるが……ただ……現界と霊界を繋ぐ確かな方位を割り出せるのは君しかいない……」
「……やはり古代の王……」

唐木は中山の言葉を遮った。
「その名前を言うな!黄泉の住人が現界に蘇る時、占い師が必ず必要になる。君がその名前を口にする度に古代の王は感応する」

「先生……あの母娘は?」
水無もまた優れた霊力の持ち主であり、母娘の姿を捉えていた。
「あれが……古代の王……」
「いや、違う。あの母娘は僕(しもべ)にすぎない」
「何故ここに現れたのでしょう?」
「何処かで結界が破れている。……おそらく……私に対しての警告…だな…邪魔をするなと……」
「……柱……ですね」
中山京子には池端家の土中から掘り出された「柱」が「見えている」

中山京子。
人を占う事、この人物に勝る人はいない……唐木にそう言わしめた逸材である。

バスは少し遅れて和壁村につき、停留所には池端が既に待っていた。
今夜は池端の紹介の宿に泊まることになっている。