ど……。

どうしよっ……。

一瞬の気の緩みから手をすべらせて、黒板消しを下に落としてしまった。


チラリとあの人の方を見る。

こんな恥ずかしい姿、まさか気付いてないよね?

気付いてませんように!


転がるように階段を駆け下りると、教室の真下にある花壇の裏へと回った。

そして、あの人がいるベンチの方など見向きもせずに黒板消しを拾うと、一目散にその場を去った。


駆け足で教室に帰る途中、なぜか唐突に頭に浮かんだ。


――そうだ、あの人にあだ名をつけよう。

そうだな……良い香りのコロンつけてたから……。



“コロちゃん”にしよう。


その日から心の中で勝手に彼のことを“コロちゃん”と呼ぶようになった。





それ以来、黒板消しは、中庭を眺めるためのわたしのアイテムになった。


毎日やるのは、あまりにもわざとらしいかなぁって思ったので、週に2回ほど窓からパンパンしている。


相変わらずクリーナーは壊れたまま。

きっと丸井先生も忘れてる。


ふふふ……。

よしよし……。

なんなら、ずっと壊れていてね。


なんて、ついそんなこと考えてしまうのだった。