滅ぶことの決まってしまった一族の、たったふたりだけの生き残り。


それは確かにあの時あたしも感じたけれど、でも。



「それと結婚とは話は別で・・・」


「ああ、本当に綺麗な景色だなあ。感動的だなあ」


「おいこら人の話を聞けっつーの」


「島の連中にも、見せてやりたいな。そしたらみんなも、きっと・・・」



ポツリと、小さな声で浄火は続けた。


「きっと少しぐらい、生まれてきて良かったって思ってくれる・・・かなあ・・・」


・・・・・・・・・・・・。



浄火の声が、あまりにも寂しげで。


あたしはまた言葉を無くしてしまう。


あたしの手を握る指に、彼はキュッと力を込めた。


その指から、ますます寂し気な気配が伝わってくる。


それは手を振り払うのを、ためらわせるほどで・・・。



無言で浄火は歩き続ける。


桜や、牛や、畑や、道端の花。


そんな何気ない風景を眺めつつ、柔らかく微笑みながら。


その嬉しそうな表情を見たら、なぜか逆に、あたしの心はひどく切なくなってしまった。



うつむき、黙って浄火と一緒に、権田原のあぜ道を歩く。


しま子はそんなあたし達から数歩離れて、見守るように静かに後をついて来ていた。



・・・この世にたったふたりだけの、生き残り・・・。




結局あたしはそのままずっと、浄火の手を振り払うことができなかった・・・。