そのせいでエンジン音が遠くなり、目の前から聞こえてきた凌牙の声だけを拾った。


「耳塞いでんじゃねえ」


顎で促され、しまいには背中を押された。


とにかく早く乗れと言ってたようで、これ以上イライラさせるわけにもいかず素直に乗り込んだ。



「ベルトしてしっかり掴まってろ」


そして車は動き出した。




大翔のバイクが蛇行しながら横を通過していく。



初めて体験する世界に、体が興奮を覚える。


怖いという感覚はもはやなく、高揚感の方が勝っていた。


生まれて初めての感覚に、まだ知らない自分に出会える気がした。




彼等の側で、何かが変われるんだろうか。



……変わりたい。


……変えてみせる。





そう思いながら、あたしは新たな世界への一歩を踏み出した。


バイクのライトの数々が、道しるべのように。



――もう、後戻りはできない。