自分の鞄からポーチを取り出し、そこに入っている手のひらサイズのミラーを彼に渡す。
ありがとうございます、とそれを受け取り、さっそくそれを確認した彼はその顔を歪めた。
「うわ、何だコレ。」
「……これって、口紅じゃない……?」
コーラルがかった色を放つそれは、よく見ると細かいラメがある。
きっと、口紅かグロスが着いたのだろう。
……それにしてもだ。テレビなんかでシャツについた口紅を見た女房が夫を追求する、なんてドラマを見たことがあるけど、まさか現実にこうしてシャツにつける人がいたとは。
「……あぁ、たぶん島田さんだ。」
「島田?」
飲み会の席で無理矢理くっつかれて、と心底迷惑そうな顔で話す彼に、苦笑いする。
きっと彼が話しているのは、彼と同期である彼女だ。
私とも彼とも同じ部署に配属されている彼女は、一見小動物のような可愛らしい姿に見とれる者も多いものの、実際は全く逆らしく。