「ただいま」


「おかえり」


隼人がちょうどリビングから顔出した。

隼人の顔を見て思う。


「お前ってさ、悩みないの?」


「はい?何急に。ってか、千鶴ちゃん、来てるぞ?」


「だから、その千鶴ちゃんっての……は?!何で?!」


「いや、俺に聞かれても」


俺は驚きつつも、リビングに走った。

藤沢はたまにぶっとんだ行動をする。

天然なのか?って行動。


「藤沢?!」


「あ……夕斗君、お帰りなさい」


「た、ただいま……ってか、何でウチに?」


「先生に、夕斗君のこのノートを渡すように頼まれてたの忘れてて、明日の授業で使うノートだったから今日渡さないとって、夕斗君、先に帰っちゃったって思ってたから、お家まで来たんだけど」


藤沢は自分のカバンからノートを取り出し、俺に差し出す。


「あ、わりぃな」


「うん……あと、普段色々気にかけてもらってるから、何かお礼がしたいと思って、昨日焼いたクッキーがあってそれを持って来たの。はい」


そして、その焼いたクッキーを俺に手渡す。

女の子なんだな、藤沢も……。

って俺、ニヤけてない?大丈夫?


「あ、ありがとう」


「このクッキー、京介も好きだったクッキーなの。もう一度、作ってみたんだけど、味は保証出来ないかもしれないけど……」


「そう……なんだ」



わかってる。

「俺に」くれたんじゃなくて、「兄貴が好きだったクッキー」だから俺達にくれるんだ。

藤沢は何も悪くない。

なのに俺、今すげー胸痛いし、心臓の鼓動が速い。



「隼人さんも、もしよかったらどうぞ」


「え?いいの?ありがとう!じゃ、さっそく」


「はぁ?」


俺は隼人に取られそうになったクッキーの袋をひょいと上にあげた。

せめて。


「俺より先に食べるの、ありえない。藤沢、取りあえず部屋いこうぜ」


俺は藤沢の手を引き、階段を上がる。


隼人は、呟く。


「あらら……あいつ、自分で何してるか分かってるのかな。バレバレですよー」