ケータイ小説 野いちご

カクテルに恋の魔法を。


 やっぱり嫌だ。もうやめた! と、私は逃げたくなった。

 どうしてこんなことに、なったんだろう。なんて、今更しても無駄な後悔を、私は延々としたくなる。

 だって律は、限界がないの? って、思うくらい、どんどん、私の中で変わってくのよ。

 私の中で律は、この子、あの子と、子をつけたくなるようなタイプだったのに、今じゃアイツやコイツ呼ばわりの危険人物。

 しかも危険人物というそのワードが、どんどん色濃く、際立ってゆくんだから困りものよね。

 人のことをブンブン振り回して、疲れさせて、律は年下のくせに生意気だわ……。

 「はぁ」と、私は溜息を吐く。

 私、なに弱気になってるんだろう。

 昨日、しっかりすればいい。そう思ったでしょう?

 うん。と、私は頷く。

 そうよ。私は年上なんだから、その威厳みたいなものが必要っていうか、負けちゃダメなの。

 たぶん、弱気とか、負けるとか、ちょっと違う気もするんだけど、でも、だいたいそんなものなのよね。

 こんなんじゃダメだ。と、私は強く思うの。

 だって、ムカつくわ。私のこの立ち位置。

 これじゃ私、律に会う前から、もう既に振り回されてるってことでしょう?

 これじゃダメ。ダメなのよ。深く考えすぎて、これ以上、振り回されちゃいけない。

 私がしっかりしていたら、大丈夫。だから、しっかりしなきゃ!

 私はフルフルと首を振ると、ドアノブに触れた。

 一杯だけ飲んで帰ればいい。それなら、顔は見せたし文句はないでしょう?

 私は「ふうっ」と、息を勢い吐くと、グッとドアノブを握り、その扉を開けた。

 ドアを開けると、今日はカップルが一組。そして男性が一人。

 バーテンダーは、律ではない男性が二人いた。

 私は拍子抜けすると、目をパチクリ。

 あれ? 律は?? と、思いながら、私は空いた一番端っこの、離れた席に座った。

 すると、一人のバーテンダーが奥に入り、律が出てきた。

 なんだ、いるんだ……。

 私は律の姿を確認すると、フイッと、自分の手元に目線を落とす。

 別に、待ってたわけでも、会いたかったわけでもないけど、なんか変な感じ。

 「こんばんは、歌子さん」

 にっこりと、律は私の前で笑う。

 私はコクリと頷くと、彼を見て続ける。

 「直ぐ帰るわよ」

 「そう言わずに、カクテルの勉強していくと思って。そう考えたら、前向きにこの時間を楽しめるでしょう?」

 つっけんどんな態度をとる私に、律はひるむことなく、手際よくカクテルを作った。

 「どうぞ」と、目の前に差し出されたカクテルは、黄色いカクテルで、オレンジスライスと、真っ赤なマラスキーノチェリーが飾られていている。

 オレンジ色に赤って、キレイ。おいしそう……。

 ジッとそれを見つめる私は、つい、律に問いかける。

 「これ、なに?」

 「あぁ、すみません。これは名前くらいは、知っているんじゃないですかね。スクリュードライバーです」

 あっ!

 「うん。それ、知ってる。よく聞くわ!」

 有名なカクテルの名前に、私はちょっとテンションが上がる。

 これがそうなの? というように、私はそれを見ると、グラスをもち、香りをかぐ。

 スクリュードライバーは確か、オレンジとウオッカで作るって聞いたことがある。だから私は、それを確かめたかった。

 オレンジのさわやかな香りと、これってがウオッカの香りね。いいにおい。

 口元がフッと緩み、私は「いただきます」と、一口飲んだ。

 甘酸っぱくて、オレンジの風味が、口の中に広がった。

 美味しくて、つい、律の言動なんてどうでよくなるように、嬉しくなった。


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