「ゴロー?」


不安でいっぱい、といった様子の孫の声。


「きゃんきゃんっ」


一気に不安が吹っ飛んだ、といった様子の元気な鳴き声。

瓦礫の下から出てきた小さな茶色い犬は、一目散に孫の胸に飛び込んだ。

よかったぁ…と呟きながら、子犬を抱きしめた孫が涙ぐむ。

孫に縋りついた子犬が、その頬を舐める。


「もう忘れ物はない?
一人で家まで帰れる?」


子犬の頭にポンポンと手を乗せたダリアが、孫に訊ねた。


「うん!
ゴローがいるもん!」


頼りなさそうな名前デスケドネ。

頷いた孫はクルリと背を向け、蹴破られて開けっ放しになった仏殿の扉に駆けていった。

わかるよ。

色々怖い思いしたもんね?
一刻も早く、帰りたいよね?

けれど扉の手前で、孫は望郷の念を堪えて立ち止まる。

振り向いた孫は、笑っていた。


「ありがとう!おねえさん!
ありがとう!ゾンビさん!」


恐怖心の片鱗もない、バーサンによく似た笑顔でそう言った孫は、再び背を向けて今度こそ走り去った。