「いや。ホント、篠塚って三笠のことが好きなんだなぁって」
「だから何よ、悪い?」
「全然」
私が不貞腐れて見せると、稲葉はそれさえも楽しそうに笑う。
それにまた文句を言おうと口を開く。
が、飛び出してきたのは私の声じゃなかった。
「青山先輩!」
稲葉は口を噤んだまま、その声が呼んだ名前に目を丸くしている。
それは私も同じで、口をわずかに開いたまま何度も瞬きをする。
「な、なんだろう……」
私は言いかけていた文句の代わりにそう口にして、稲葉と顔を見合わせた。
青山先輩、というのはやっぱりあの青山透のことだろうか。
好奇心につられて、二人一緒にその声のした方へと近づく。
人気のないゴミ捨て場の裏。
植木と茂みに隠されたその場所を覗き込む。
すると、予想通りというかなんというか、告白の真っ最中だった。
告白しているのは見知らぬ女生徒。
告白されているのは、稲葉の思い人である青山本人だった。
「あっ、あの……入学したときから、先輩のことをずっと見てました!」
耳まで真っ赤になった女生徒が上ずった声で告白する。
青山の方は馴れているのか、落ち着いた様子で女生徒を真っ直ぐに見ていた。
青山透ファンクラブなるものが校内に存在すると、まことしやかに流れるだけはあるらしい。
少なくとも、私のクラスだけでも青山が好きだという女子は十人いる。
私が知ってるだけでそうなのだから、実際はもっといるのかもしれない。
校内ファンクラブなんて、少女マンガの世界にしかないと思っていた。
「好きです」
クリスマスが近づくことに焦った末のチョイスだったのか。
人気がない場所という意味では告白にもってこいの場所だけど、少々臭いが気になる。
そんな場所で、女生徒はとうとう愛の言葉を口にする。
青山はなんて答えるんだろう。
茂みの影にしゃがみ込んで告白シーンに見入っていた私は、ふと隣にいる人物のことを思い出した。
そっと隣を見ると、稲葉は口を半開きに放心していた。