「空が赤いね、愛ちゃん!」


 昇降口を出た舞は、熱のせいで妙にハイテンションになっていた。

 真っ赤な空を見上げて楽しそうにケタケタと酔ったように笑っている。

 両手を広げてくるくると回る舞に愛おしさが込み上げてきて、私は夕日を背負う舞から目を逸らした。


「夕日って、眩しいよね」

「止まらないと、また倒れるよ」

「えへへへへっ」


 回転を止めた舞の真横に立ち、歩き始める。

 真っ直ぐに前を向いていると、舞の横顔は視界の端にしか映らない。

 それでも私は、舞ばかりを見つめていた。


「そういえば、倒れたとき運んでくれたのって愛ちゃんだったんだね。保健の先生に聞いたよ。お姫様抱っこしてきて、王子様みたいだったって!」


 私よりも十センチほど背の低い舞が、私を見上げてくる。


「助けてくれてありがとう。愛ちゃん、大好き!」


 ふざけた様子で、ぎゅっと私の腕に抱きついてきた。

 腕を絡め、頬をくっつけてくる。

 舞の熱い体温に、舞の柔らかい体の感触に、私は心臓の所在をはっきりと感じていた。

 例え、私の好きと舞の好きが大きく違っても、それでも私は涙が出るほど嬉しかった。


「あ、ごめん。風邪うつっちゃうかな」


 そう言ってすぐに離れた舞に、私は大丈夫だよって言いたかった。

 なのに、胸が詰まって声が出ない。


「そういえばさ、愛ちゃん。私を保健室に運んでくれた後、すぐに教室へ戻っちゃった?」


 とうとうきたその質問に、私は体を硬くする。