俺を追いかけてきたのか、俺が校舎に入っていくのよりも先に篠塚の方が校舎から出てきた。


「稲葉……」


 アルミ枠の扉の縁に囲まれて、俺を真っ直ぐ見つめ立ち尽くす。


「篠塚……」


 見てしまったものに俺は少し混乱していて、少し興奮していた。

 篠塚の顔を見たとたん、歯止めが利かなくなる。


「おまえ……三笠が好きなのか? なあ、そうなのか?」


 篠塚の腕を掴みながら、俺は少し笑っていたような気がする。

 嬉しくて嬉しくてたまらなくて、俺は篠塚にそれを認めさせたかった。


「違う!」

「じゃあ、何でキスしようとしてたんだよ」


 確かに見たんだ。

 追及する俺の言葉に青ざめる篠塚に、俺は更に喜びを感じる。

 確信した。

 青ざめるその様子に哀れみを感じる余裕さえ失っていた。

 俺は、嬉しくてたまらない。


「してないよ、そんなこと!」

「嘘をつくな! なあ、篠塚……篠塚は、三笠のことが好きなんだろ? なあ、好きだって言えよ!」


 強く握り締めた手に、篠塚が顔をしかめるがそんなことには気付かない。


「違うっていってるじゃない!」


 強く振り払われた手に、痛みを感じる。


「そんなことあるわけないじゃん! だって、女の子同士なんだよ? そんなこと……そんなの」


 やめろ、その先は言うな。

 篠塚が何を言うか察した俺は、篠塚の口を両手で塞ぎたい衝動に駆られる。

 俺が本当にそうするよりも先に、篠塚はその言葉の続きを言い切ってしまった。


「気持ち悪い!」


 その言葉と同時に、篠塚の下睫に結びついた涙の滴が膨れ上がる。

 言い終わるとほぼ同時に、その雫は決壊して頬を伝った。