「そんなことないって」


 どんぐり眼が俺を真っ直ぐに見据えて、人差し指を立てる。


「両性愛者を含めて、男性の同性愛者は人口の十パーセントはいると言われています」


 何かを諳んじるように、篠塚は背筋を伸ばした。


「まあ、数十年前のアメリカの調査結果だから、現代日本にどれだけ当てはまるのかは分からないけど。でも、単純計算でうちのクラスだけでも二、三人はいるのよ!」


 ゴンッ。

 自分の後頭部辺りで、なんだか鈍い音がした。

 力強く拳を握り締めて力説する篠塚の勢いに押されて、思わず身を引いてしまった。

 後頭部をエレベーターの壁でぶつけてしまったのだ。


「大丈夫?」

「大丈夫」


 手を振って答えると、篠塚は気にせず続けた。


「だからさ、その中の一人が青山だっていう可能性もあるのよ!」


 両手を広げて、無邪気に笑う。


「でも、例え青山が同性愛者だとしても、俺を好きになるかはまた別問題だろ?」

「うん、そうだよ。両思いになれるかどうかなんて誰にも分からないよ。異性愛でも同性愛でも」


 だから、可能性はゼロじゃない。


「うん。そうだな」


 篠塚の笑顔につられて、少し笑った。


「でもなぜかな。女性の同性愛者って、男性の半分ぐらいしかいないらしいのよね。不思議」

「俺は篠塚がそんなに詳しいのが不思議だよ」

「あれ。調べたりしなかったの? 自分がそうだって気付いた時」


 自分が誰に恋をしているのかを知った時、自分が同性愛者であると気付いた時。


「うん、調べたよ。でも……」


 手が、震えた。