ケータイ小説 野いちご

カクテルに恋の魔法を。


 「みんなに、伝わってるんじゃない? 私には、律のおもてなしの心って言うの? そういう気持ちはちゃんと伝わってるわ」

 「おもてなしの心……、ですか?」

 納得いかない顔をする律は、心配しているの?

 大丈夫よ、心配しなくても。

 私はコクリと頷き、両手を握りしめて自信満々に続けた。

 「うん。ちゃんと律の気持ちは伝わってる」

 「そう、願いたいですね」

 何故か溜息交じりに答える律は、片思いの相手でも思い出しているんだろうかと、なんとなく私はそう思う。

 もしかしたら律は、私のように想いが届きにくい相手に、恋をしているのかもしれない。

 ちょっと、親近感を感じるわ。って、土台が違うか。

 モテる男と、モテない女。片思いの相手が振り向く確率は、同じじゃないわよね。

 私は律の言葉に「きっと、大丈夫よ」と、頷き、カクテルに目線を落とす。

 そして、律を見上げて続けた。

 「ねぇ、律。これは飲めないの?」

 「え? いや、そういうわけではないのですか。その、このカクテルは、どちらかと言えば観賞用なんですよ」

 観賞用?? 目をパチクリとさせる私に、律はカクテルを見ながら口を開く。

 「これは、お酒の比重で層を作るんですよ。重いものから順に入れていくわけです。簡単に言えば、原液を重ねたようなものなので、上の方のアルコール濃度はとても高いんです。まぁ、飲める方は、ストローで好きな部分から飲んだりしますが、歌子さんを酔いつぶすわけにはいきませんから」

 紳士ねぇ……。

 口ではペラペラと簡単に、色んな台詞が出るくせに、律はやっぱり紳士な男なんだと、私は嬉しくなった。

 やっぱり律はいい子なんだわ。と、そう思えた私は何だか嬉しくて、笑う。

 「大丈夫よ。そう言ってくれる紳士な律と一緒だし、私は酔っても、律を襲ったりはしないから、安心してね」

 「またそんなことを言って。僕は自分の身を心配して言っているわけじゃ―――」

 「飲みたい。ねぇ、いでしょう?」

 私は笑って律の言葉を遮ると、お願いをする。

 こんな面白いカクテルを前にして飲まないとか、もったいないわ。

 溝内さんと話すとき、会話のネタになるかもしれないし、これは一度だけでも飲んでおかないと。そうでしょう?

 律は数秒間だけ考えると、溜息交じりに頷いた。

 「どうぞ。そこまでおっしゃるなら。でも、無理はしないでください。責任持ちませんからね」

 責任って、私はちゃんとした大人だから大丈夫よ。

 私は頷き、笑うと、「ありがとう。いただきます!」と、一番下にストローをさして飲んだ。

 まずは第一印象。あ、別に大丈夫? と、思った。

 けれど、上の方を飲んでみると、クラリとした。

 思わず手で、私は口を押える 「これ、すごい。何これ。え?」と、私は興味本位で、確かめる様にまた飲んだ。

 ダメだ、これ、止まらない。

 ふふっ。と、私は何故か笑う。

 「ちょ、ちょっと。歌子さん? 大丈夫ですか??」

 律の心配そうな声が聞こえた。

 私は笑って顔を上げる。

 「ねぇ律。私、こんなの初めてこんなの飲んだ。なんか面白いわ」

 「え? ちょ、歌子さん!」

 私は調子にのって、また飲む。

 飲む場所を変えて飲むと、違った味を楽しめて、それが7層だなんて、面白いとツボにはまってしまった。

 美味しいとかという意見よりも、どちらかといえば、お遊びみたいな感覚。

 こんなにも楽しいのは、私が酔っぱらってるから?

 なんて、まさかね。

 「あの、あまり無理しないほうがいいですよ。僕はどうなっても知りませんから。これ、忠告ですよ。僕は今、ちゃんと忠告をしていますからね!」

 律は真面目な顔して私を見ている。

 なによ、その顔。なんか、らしくなぁ~い。

 私は何故かおかしくて笑う。

 「へ? やだなぁ、もう。やめてよもぉ~。大丈夫に決まってるでしょぉ~」

 右手をふらふらとして、笑う私は人前でこんな姿を見せたことがあっただろうかと、考えてみても思い出せないし、どうでもいいことのように思えた。

 「歌子さん。語尾。すでに言葉の語尾が怪しいです」

 「え~??」と、私は律に目線を向けた。瞬間、なにこれと、思った。

 律が分身の術を使ったかのように、何重にも見える。

 あれ? こんなの初めて。私、どうしたの??

 あれれれ。と、思っている間も、くらくらする感覚が、どんどん強くなる気がした。

 スーッと意識が遠のく。

 あ、これって、まずいのかも。と、感じた頃には時、すでに遅し。

 私はへにゃりと身体をテーブルにあずけ、突っ伏した。

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