あれから一年。


私と彼との関係は変わらず、社長と秘書と言う立場を平行線で保っている。


つまり彼の告白に「Yes」も「No」も返事をしていない状態だ。けれど彼は返事の催促はこの一年でしなかった。


そして私の気持ちは―――


空に浮かぶ花火のようにくるくる色を変えて、大きくなる鼓動のように恋心は膨れ上がっていった。


私は見合い写真の一枚を手に取り、その角にタバコの火を押し付けた。


見合い写真の隅から炎があがり、やがてそれはメラメラと音を立てて燃え盛った。


「吉鷹?」


驚いた彼がベッドから体を起こし、


私は燃え盛る見合い写真をゴミ箱へと放り投げた。同じようにあまたある写真も放り入れると


ゴミ箱の中で炎は揺らめき


その紅い色を眺めながら私は空を見上げた。





「送り火です。


真奈美に対する―――



私はもう―――迷ったりしない。悲しんだりしない。


だってこれからはあなたが―――」





言いかけた言葉はかき消され、私は彼に強引に口づけされていた。


素早い動作で抜き取ったタバコも彼の手により灰皿の中で鎮火され


ドォン


鼓動のような音を聞き、私たちは夢中で口づけを交わした。



彼の胸にそっと手を這わせる。


トクントクン



それは空に打ちあがる花火の音ではなく、彼の心臓から発せられる鼓動だった。


その音に安心してそっと目を閉じる。




「お前の悲しみや苦しみに送り火だ。



この瞬間から、お前が穏やかで居られるように」



願いを込めて





遠い日の記憶を送り出そう。






さよなら真奈美、



さよなら




また会う日まで。







~END~