私は彼の第一秘書。秘書は私のほかにもう三人ほどいるのに、何故か社長は私にだけ構ってくる。


いや構ってくる―――と言う言葉が適切なのかどうか分からないが、彼の私への接し方は一介の秘書と言うより、まるで弟に接してくるような気軽さだ。


私の方が五歳も年上なのに。


いや、この際年齢なんて関係ないな―――


彼と私には主従関係しかないのに、彼の元に勤めてもう十五年―――




この頃何故かそれ以上の気持ちを求めてしまう。




十五年だ。長いもので早い。


彼に何を言ったら怒るのか、何を言ったら喜ぶのか私は掌握している。






―――彼は望んでいる。


私と一緒に花火大会に行くことを―――





けれどそんな気分になれなかった。



私はただ


彼とここでゆっくりと花火の〝音”を聞いているだけで十分だった。


赤、青、黄、ピンクやオレンジ―――


鮮やかに変わる色とりどりの花火を眺めていると、何だか自分だけがその場に取り残されたような―――


そんな錯覚に陥る。


そんなはずないのに――――


ここは会社ではなく彼の部屋。高層マンションの一角で、空がより一層近く感じる。


このマンションを購入して五年が経つが―――購入したばかりの五年前と何ら変わりない清潔さが保たれていて、彼の几帳面さが伺いしれた。


と言うよりも―――


まるでここだけ時が止まっているような―――そう言った方が正しいのか。





「ここだったら真奈美の傍に居られる気がするから」




それが、彼がマンションを購入するにあたっての決め手だった。


部屋の一角に置いてある小さなリビングボードの上に、銀製のフォトスタンドが飾られていた。


その中で微笑むのは―――彼の五歳離れた妹―――真奈美さんだ。





彼女は五年前のこの日


二十五歳の若さでこの世を去った。





交通事故だった。