両腕を人間に掴まれ、必死に抵抗を図るフランは、何度も俺の名を呼んでいた。


 彼女の悲痛な叫びが俺の胸を打つ。



「フラン!!」


「クライド!!」

「おい、なんだお前は!! どこから来た!?」


 突然姿を現した俺を見るなり、人間は警戒心をあらわにする。

 懐からナイフを取り出した。


 だが、俺はポセイドンの次に強力な魔力を持っている。

 人間が作った刃物で脅せるはずがない。


 相手と距離を保ちつつ、ゆっくりと近づいていく……。



 対する人間は、俺が纏(まと)う雰囲気が自分たちとどこか違うのを無意識的に感じ取っているのか、フランを掴んだまま、後退する。


「痛い目にあいたくなければ、彼女を離せ」


「痛い目? 丸腰の奴が何を言ってるんだ? こんないい金蔓、誰が簡単に手離すかよ」


 だが、やはり人間は愚か者だ。

 俺のことを何ひとつ知らない人間は、フランの顔の横に鋭く尖ったナイフの切っ先をちらつかせる。