六角獄で傷を負って以来、山南先生は剣を振るえなくなってしまった。


一時はふさぎこんでいた山南先生だけど、戦のあとの編成替えで、副長から総長へと昇格した。


総長と言えば局長の下、副長の上。


つまり、土方副長より立場的には上だ。


実戦に出られなくても、その頭脳、人柄共に彼は新撰組に必要なのだということを他の隊士に示す、土方副長の心遣いなのだと総司は言った。


『土方さんはああ見えて、山南さんが大好きだからな』


『そ、そうなの?』


『土方さんの趣味の発句集の中に、<水の北 山の南や 春の月>って句があってな』


趣味の発句!?

あの鬼副長が、そんな風流な趣味を!?


驚くあたしに、総司は笑いながら言った。


『山南さんの出身は仙台だろ。

北から来た山南さんは、春の月みたいだ……って聞こえるけどな、俺には』


春の月……あたたかい夜空に浮かぶ、丸いその姿は、たしかに優しい山南先生の人柄を現しているよう。


そんな山南先生は相変わらずみんなに好かれているけれど……。