一瞬だった。 目を見開いた瞬間、部長の顔が近付いてきて、指先が唇をなぞったかと思うと、 雨で濡れた部長の唇と重なった。 キス、されているのだと気付いたのは、部長の顔が離れてからだった。 潮の湿った匂いと、アスファルトに雨がしみ込む匂い。 その中で私は、自分の涙の味と部長の苦くて煙草の味がするキスに、 ただただ呆然としていた。