よく見ないとわかんないけど、小さな傷がある。
もう、ここにいるのはよそう。
あっちに帰らなくちゃ。
そう決心させるには、大き過ぎる傷。
「私、帰るね」
呟いて席を立つ。
それだけじゃ不信だから、理由をつけて。
「見たい番組があるし」
言うが早いか、扉に手をかけようとする。
「棗」
送っていくと言う。
私がそれを断ると知っているくせに、毎回言う。