まあでも、そんなことはありえないよなって思った。


 彼女の目に俺が映ることなんかないだろうって。


 この辺では見たことのない顔だったし、見た感じ中学生くらいだったけど俺の中学にはいない顔だったから、もう見かけるのはこれが最後だろうなって諦めて。


 それでも、可能な限り彼女の優しい雰囲気に触れていたくて横目で見続けた。


 ちょうど彼女の真後ろに来て、俺の目に映るのが横顔ではなく頼りなさげな細い背中になった瞬間、花屋の方から女の人が誰かを呼ぶ声が聞こえた。


 かと思ったら、今まで花を見ていた女の子が勢いよく立ち上がり、あろうことか俺に突進してきた。


 あまりにも突然のことだったから、その時手に持ったリコリスの入った軽いプランタを離してしまい、道に思いっきり落とした。


 広範囲に渡って飛び散った土。


 それはいい、しょうがない。


 見たところリコリスも無事だった。


 そんなことより、問題は女の子。


 俺はよろけただけだったけど、その子はぶつかった衝撃で尻餅をついた。


 痛かっただろうに、俺に泣きながら謝り続けたその子。


 そして、すぐにかけつけた彼女の母親らしき人も、その子と一緒になって俺に頭を下げた。


 どうしていいかわからなくなって、なぜだか彼女の泣き顔を見るのが辛くて。


 俺がとった行動、それは……。