かき鳴らされる音は、それはもう、恋夜が発するときめくようなキラキラに似た音。


少しだけ腕の力を強くした恋夜は、律子が傷付かないよう触れた、逸人と同じ温もりを持っている。


「リッコの要らないものは全部俺のモンだから。だから、捨てようとすんな。預けろ」


「私、右乳の横に傷があるわよ?それもレンのもの?」


「バカヤロー、当たり前だし」


恋夜が律子に送る言葉は全てが律子にとって『必要なもの』となっていく。


これは、心に大容量の棚を置かないとなぁ、なんつって。


未だ止まらぬ涙を溢しながら、律子は心が温かくなり、そんなことを思えた。


「何か、一世一代のプロポーズみたいね。今のレンの言葉」


「はっ?う、うーん、まぁ、あんたの思った通りに思ってくれて良いけど?」


否定も肯定もしないその曖昧な言葉さえ、律子は『必要なもの』として心に受け入れる。


外は、変わらず灰色の空いっぱいに寒さを含んでいる筈なのに、律子は今にも溶けてしまいそうな程、甘やかな気持ちになった。


そして、自分の右乳の傷も、逸人の足の傷も、少しずつ、大切なものだと認識出来るようにしよう、と決め、恋夜の背中に自らの腕を回した。