ケータイ小説 野いちご

【完】籠球ロマンティック

「ヤベ、もうこんな時間!金石、またな!」


ふと病室の掛け時計に目をやった葉月は、ガタン、と音を立てて立ち上がり、返事のない女に向けて笑顔を見せる。


これが葉月にとっての日常。例えるなら、他の誰かが朝目覚めて欠伸を落とすような、それくらいに当たり前の日常。


そして、病室を出ると、女の母親に無言の視線を向けられるのも、日常。


金石がああなったのは俺のせいだからな。あれから七年経ってたって、いや、何十年経とうと許すことは出来ないよな。


葉月は女の母親の視線に、ふぅ、とため息を溢し、心の中で呟いた。


病院の外はもう秋色に染まり、葉月の体に冷たい風をぶつける。


「変わんないよ、俺は。あの頃から、身長も、体重も、心だって。1ミリたりとも変わっちゃいない」


……だから早く起きろよ、金石。


想っても、焦がれても、この声が女に届くことはない。女はただ無機質な白に囲まれて、固く閉じた瞼を開くことはないのだ。

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