と、その瞬間、ぐっと肩をつかまれて
蒼介さんの腕のなかに抱き寄せられる。


お店のなかで、
何人ものひとが見ているなか、
蒼介さんは
顔色ひとつ変えずに続ける。



「だからモモ、口移しで飲ませて。」



面白そうに
腕のなかの私を見つめる蒼介さんに
ぎゅっとにぎった片手を差し出す。



「なんなら3発目は
私がなぐりましょうか?」



「冗談だってば。こえー兄妹だなぁ。
しかもお前、グー…かよ。」



おかしそうに笑う蒼介さんの
腕のなかからやっと解放される。


ふと、蒼介さんが飲んでいる
レモンソーダに目がとまる。



「あれ?蒼介さん、
今日はコーヒーじゃないんだね?」



「あ、ああ。」



ちょっと気まずそうな顔で
蒼介さんが苦笑いする。

前はたしかコーヒーをブラックで
飲んでいた。



「俺、本当はあんま
コーヒーとか飲まねぇんだよな。
ギリ、カフェ・オ・レ。

モモの前で
ちょっとカッコつけてただけ。
本当はにげぇと思って飲んでた。」



蒼介さんが照れたように
笑ったのをみて驚いた。



「カッコつけるの?!蒼介さんが?!」



なんにもしなくても、
こんなにカッコイイのに?!



「お前はさ、
いっつも変わんねぇよな。」



ちょっとつまらなさそうに
蒼介さんが言う。



「そんなこと、ないよ。
どう変えていいのか
わからないだけなんだけど…。」




「それよりさ、一樹の許可もとれたし
週末でかけようか?初デート。」



「これ、許可とれたっていうの…かな?

…でも、行きたい!」



「じゃ、どこ行く?」



蒼介さんと2人で
行きたいところがあった。