「兎に角、ここから出よう。
話は一旦、終わりっ!
いつまでもいる訳にはいかないしね。
折角だし、気分転換にどこか行こうよ。
でないとこのまま、二人きりでここにいると
押し倒しかねないからね。」


「っ!お、お、押し倒し……!」


「冗談だよ。
俺だってそこまで強引に手は出さないって。」


「…………。」


半信半疑の眼差しを目一杯送る。


「分かってるって、胡桃ちゃんが
ちゃんと俺だけを見てくれるまで
何もしないから。だけど……
これくらいは許してよ。ねっ?」


と、スッと坂下さんが私に向けて
手を差し出した。


少し迷ったけれど、
そっと自分の右手を伸ばしてみる。


坂下さんの手にグッと
力が込められたのが分かった。











正直言うと、一人でちゃんと
立ち上がれるか不安だったんだ。


体に力が入らないと言うかーーー
フワフワしてるって言うか……。


それはきっと目の前にいる
坂下さんの言葉よりも
さっき頭を下げながら言った
サトルさんの言葉が……

ーーー悪い、
こいつのことよろしく……ーーー


その言葉が私の頭の中でいつまでも
いつまでもリフレインしていたから。


私は坂下さんに引っ張られる形で
漸く立ち上がった。


極度の緊張から解放されたせいか
少しフラッとしたけれど。


何とか立ち上がった私を見て
坂下さんは少しホッとした顔をした。






もしかしたらーーー


坂下さんは私がサトルさんの言葉に
ショックを受けて
体に力が入らない事を知ってて……?




優しい心配りの出来る人だから
きっと。


そんな気がしたんだ。