……うわー、今 思い出しても すっごくドキドキする。

あの時は本当にすぐ目の前に藤沢くんが居て、彼の息遣いがわかるほどに近かった。

私の目に映るのは藤沢くんだけ。

そしてきっと、彼の目に映っていたのも私だけ……。


ほんの一瞬の出来事だったけど、私にとっては最高の時間だった。

……まぁ、結局そのあとは会話らしい会話のないまま1ヶ月が経っちゃったけどね。


でも私は藤沢くんのことを目で追うようになり、時々目が合って彼が笑いかけてくれるのが どうしようもなく嬉しかった。


……藤沢くんが好き。

それは紛れもない事実だった。






「……彼のこと、また見てるね」

「えっ……?」



ふと、隣の席のマーくんが呆れたような顔で私を見ていた。

うわっ……私ってば、マーくんが呆れるくらいに藤沢くんのことを見てたっ……!?



「告白すれば?」

「やっ……それはさすがにっ……」

「じゃあ ずっと片思いしてる気?」


「うぅ……でも……」

「でも?」



小声で話す私たちのことを、気にしてる人は誰も居ない。

だけど なんとなく周りの目を気にしながら、マーくんに小さく言った。



「……私とあの人じゃ、全然釣り合わないよ……」



藤沢くんは勉強もスポーツも出来て、格好良くて素敵な人だ。

でも私は、なんの取り柄もないただの女子高生。


スーパースターみたいな人に私みたいなのが告白したって、フラれるのが当たり前。


だったら何も言わずに藤沢くんを見つめていたい。

好きって気持ちは隠したままになるけれど、それでも私は幸せな気分になれる。


幸せならそれでいいじゃないか。と、思ったんだけど……、



「……釣り合うかどうかは、ミサが決めることじゃないよ」

「え……?」



……それってどういうこと? と聞こうと思ったけれど、担任の先生が来てしまったため、言葉を繋げることが出来なくなった。

その後もその話をする機会はなく、私は頭の上に はてなマーク を浮かべるだけだった。