監査が済んでから一週間。カレンダーは紫陽花の写真が綺麗な六月に変わった。

新規の社食の立ち上げに協力していたらしい椎名さんとは、電話で用件を話すぐらいでまだ会えていない。

専務との一件があったから、会いたいけれど会わない方がいいような気がしてしまう。


毎朝の定番となっている、ミルク多めのコーヒーとマーガリンを塗っただけのトーストをテーブルに置き、さっきの夢をぼんやりと思い返す。

もう色がついていたかもわからないぐらい薄れてきているけれど、椎名さんの言葉だけはしっかり残っている。



「あの時も、同じ気持ちだったのかな……」



あの夜、彼が私にキスを、それ以上のことをしようとしたのは、寂しさを紛らわすためだったのだろうか。

でもたしかあの時、『誰でもいいってわけじゃない』って言ってたよね?

それはどういう意味にとったらいいんだろう……。

考えれば考えるほど迷路から抜け出せなくなりそうで、いつもより味気なく感じるトーストを飲み込み、ため息をついた。


歯を磨きながら洗面台の鏡を覗けば、やはり疲れた顔の自分がそこにいる。

あぁ、肌もハリがないし、若干クマ出来てるし……。真琴ちゃんのツヤツヤした弾力のある肌と比べると、自分の歳を感じる。


小雪さんはどういう女性なんだろう。

私より若くてピチピチな女の子だったら、もう勝ち目ないわよ……。

勝手に彼女の姿を想像して、鏡の中の私はさらに老け込んだ気がした。