「とにかく、こんな理不尽な命令は聞けません!」

「そう。僕には君達との契約を切ることも、椎名さんをマネージャーから降格させることも出来るけどいいんだね?」



ぐ、と言葉に詰まる。

そうだ、専務の立場なら私達のクレームを本社にたれ込んで、ここから追い出すことだって可能なのだ。

無慈悲なこの人ならやりかねない……いや、絶対やる!!

何も言えなくなった私に、彼は綺麗過ぎる笑顔という武器も併用してトドメを刺した。



「この間のように二人でいるところを見た場合、そういうことになるから覚悟しておいて。あぁちなみに、このことを他言した場合や、君達が他に大きなミスをした時も同じだから」

「ひ、卑怯者~~!!」

「ほら、吠えてないで監査で指摘された点をさっさと改善してくれる?」



しっしっと手で追い払う仕草をした冷徹男は、颯爽と自分のデスクに向かう。

私は怒りのバロメーターを振り切りながら、何も言わずに部屋を出て、壊れるんじゃないかというくらいの勢いでドアを閉めた。



「あのサイテー男ぉ~!!」



すれ違う社員に引かれるのも構わず、暴言を吐きながら廊下を歩く。

あの人の言いなりになんて絶対なりたくないけれど、皆に迷惑をかけたくはないからそうするしかない。

でも、私達のことが嫌いだから恋路を邪魔しようとするなんて……あの人やることメチャクチャだよ!



「どうしよう椎名さん~……」



専務の要求はこれだけじゃ済まなそうだし……。

これからどうなるのかという不安は、私の声を次第に弱々しいものにしていくのだった。