今日、特に会いたくもない慶介に連れられてここへ来たのはすべて、この茶封筒を返すためだ。

それ以上のことは何も話すつもりはなかった。


それなのに、慶介は整った眉尻を上げたまま薄い唇を引き結び、まだ話すことがあるだろうとそう言うように、ただだんまりを続けている。


この部屋はふたりで過ごすには十分の広さがあると思うのに、彼の存在がとても大きく見えるのは気のせいかしら。

この空間がとてつもなく狭く感じて、正直息が詰まる。


彼の無口なところがクールでカッコいいだなんて、いったいどこの誰が思ったのだろう。

その姿勢があたしの神経を尖(トガ)らせてくるというのに!!


                   
そんなあたしの思いをよそに、『とてつもなくクールでカッコいい慶介』はやっぱり薄い唇を開かない。


――かと思えば、彼は懐から一枚の紙を取り出し、あたしが持ってきた茶封筒の隣に置いた。

ガラステーブルの上には手渡された茶封筒と書類が仲良く並んでいる。

慶介が取り出した紙はなんだろう。


そう思うのに、あたしの直感がその用紙に書かれている内容を見たくはないと拒絶する。

それでも内容を知らなければ彼との話し合いが一向にまとまらないのも事実だ。


だからあたしは嫌々ながらに仕方なく慶介が取り出した薄べったい紙切れを横目でちらりと流し見た。


用紙に書かれていた内容を知るにはその行為だけで十分だった。