「う~ん」

そのとたん、あたしがいなくなったのを察知したのか、祈ちゃんは突然あたしがいた方向へと寝返りを打ってきた。

そのおかげで布団がめくれてしまう。

いくらあたたかい夏とはいえ、背中丸出しで眠っていると体が冷えてしまうだろう。


めくれてしまった布団を元通りに祈ちゃんへと被せると、彼女は夢の中にいるにもかかわらず、あたしの行為を知っているかのように小さな口角をくいっと上げて笑っていた。


その姿は本当に天使のようでとても可愛い。

起こせないからしないけれど、ふっくらとしたほっぺたを思わずプニプニと押したくなってしまう。


もう少しだけ。

自分にそう言って、潤さんを探すのを先延ばしにして静かに眠っている祈ちゃんの姿を見つめていた。


すると、さっきまで閉まっていたはずの木目調の扉が開いているのが視界の端に映った。

同時に部屋の入り口からは射抜いてくるような鋭い視線も感じた。


あたしは自分に降り注ぐ視線が気になって、天使のような祈ちゃんから木目調の扉がある方向へと顔を向ける。


すると案の定、扉は開いていた。

だけどそれだけじゃなくって、開いた扉にもたれるようにして、彼が立っていた。


彼とはもちろん祈ちゃんのお父さん。潤さんのことだ。

彼の立ち姿を見た瞬間、あたしの背後に悪寒がはしった。

潤さんは腕を組み、しかも、眉間には深い皺を寄せてただ黙ったままこちらを見下ろしている。