「これっ!!」

突然鼻歌が途切れたかと思えば、次に小さな人差し指がいくつもある写真のひとつをさした。


それは黄色いワンピースを着た祈ちゃんと、赤や黄色、白といった色とりどりのチューリップが満開に咲いている写真だった。

写真の中の祈ちゃんもそれはとても可愛い。

口を大きく開けて、幸せそうに笑っている。

真っ青の空の下、息を深く吸えば花々の甘い香りが鼻腔をくすぐり、そよぐ風は優しく包み込むようにして頭をそっと撫で、頭上では小鳥たちがさえずる。

写真を見ただけでも、その光景が手に取るようにわかる。



……あたたかい。

とても真っ直ぐで可愛らしい写真だ。



「これね、パパがとったんだよ?」

しばらく1枚の写真を眺めていると、祈ちゃんはとても嬉しそうに振り返り、そして誇らしげに告げた。

それはまるで自分のことのように『すごいでしょう?』と自慢している。


「とても綺麗ね」

あたしが言えば、祈ちゃんは「そうでしょ」と満面の笑みを浮かべながら次のページをめくる。


祈ちゃんは、ほんとうに潤さんのことが大好きなんだな……。

彼は祈ちゃんの父親なんだ。


当然といえば当然だと思うけれど、それでも祈ちゃんの写真の説明を聞きながら、純粋にそう思った。


そうしてあたしはその時まで、自分の身の上をすっかり忘れていた。

――ううん。
忘れていたんじゃない。


忘れようとしていたんだ。


そのことに気づいたのは、祈ちゃんが大きな口を開けてハンバーグを食べようとしている写真を見てからだ。