朝、七時半起床。

冷たい水で、ばしゃばしゃ、顔を洗って気合を入れる。

タオルで、ざっと顔をぬぐって、男の子みたいに短い髪をブラシでとかしたら、終わり!

わたしは支度が異常に早い。

「真琴。今日は始業式だから、バスケ部の朝練はないんでしょ?」

鏡の中に、お母さんが顔を出した。

「ないけど、自主練だよ。」

「ねえ、真琴。あなた、今日から中三でしょ?受験生の自覚はあるの?バスケもいいけど、そろそろ、高校のことも考えないと。」

ああ、朝から、これだ。
うっとうしいなあ。

「じゃ、行く。」

「明日からは真澄もいっしょに連れていってよ。」

「げえ。やだよ。なんで学校まで、弟のお守りをしなきゃなんないの!!?」

弟の真澄は、この春から、同じ中学の新入生。おとなしくてお行儀がよくて、顔もキレイで、よく女の子に間違われる。

まつげが長くて、髪も、さらっさらのつやつやで、天使の輪ができてんの。

体つきもきゃしゃで、手足が長い。

わたしが小学生の頃は、真澄といっしょにいると、いつも、
―お兄さんと妹さん?
って、言われたっけ。

中学は制服だから、さすがに、もう性別は間違えられないはずだけど。私服だったら、正直、いまだってたまに言われる……。

「お母さん。真澄だって、もう中学生なんだし、いつまでも、そんなふうに子供扱いされたくないと思うよ。」

「でも、あの子は真琴と違って、内気だし、繊細だし、おとなしいし、病弱だし。イジメられないか、心配なのよ。」

む。

「わたしだって、繊細です!」

「あ、ちょっと待ちなさい!真琴!」

「いってきます!」

あわてて、家を飛びだした。

もちろん、お母さんの心配はわかる。

真澄は小学校のとき、そのルックスの
せいで、クラスの乱暴な男子にイジメ
られさたことがある。

でも、本音を言えば、真澄といっしょに
登校なんかしたくないよ。

―なんだよ、真琴。弟は、すっげえかわいいのにな?男女逆転すれば、よかったのにな。惜しいよな。

って、口の悪い男子バスケ部の連中に、
からかわれるにきまってるもん。

真澄とは、校内では、なるべく他人の
ふりをしたい……。

それに、いきなり受験生って言われたって、ぴんとこないなあ。
バスケ部だって、ぎりぎりまでやりたいし、塾も行く気がしないし。

まあ、悩んでもしょうがない。

なんとかなるよね!

元気よく走っていくと、校門まで続く
桜並木は満開で、全身が甘い香りに包まれた。中学に入って、三度目の春なんだ。

「え~っと、わたしは?」

廊下の掲示板にはりだされた、新しいクラス表を見上げていると、

「よう!」

どんと、背中を叩かれた。

「あ、誠。」

振り向くと、高島 誠が立っていた。
あいつのやんちゃな笑顔を見ると、
とくん、少しだけ心臓が跳ね上がる。

「おはよ。わたしは、三年A組だったよ。誠は?」

「オレは、B組。あ、優里といっしょだ。」

「優里と?ちぇ。いいなあ~」

前野 優里は、部活の女子バスケで
いっしょ。いちばん気があう女の子の
友達なんだ。

「わたしも、優里といっしょがよかったなあ。」

「オレとクラス離れたことを、もっと
残念がれっつ~の!」

誠が、ふざけて、どんと肩をぶつけてくる。

「痛いってば!わたしは、えっと、長野といっしょか~。」