「椎名。私が欲しいか」


「欲しいさ」


椎名はわざと明るく答え、部屋のカーテンを開けた。三月の淡い陽光が二人の目にまぶしく飛び込んできた。


「だが、今じゃない。克己が戻ってから、二人で競争して、どっちがふさわしいか夕夏に選んでもらうさ。だが、俺の方が有利かな。何しろ、今日、良縁をもたらしてくれるひな人形を拝めたんだから」


「好きに言っていろ」


夕夏はにっこり笑った。そして時計を見た。二人の時間は終了だ。今日はオフィスを早く閉める日なのだった。


椎名は、隣室に克己を迎えに行った。克己は、青白い顔をさらに青くさせて、ベッドに寝ていた。椎名は、車椅子の準備をしながら、克己に向かって語りかけた。


「克己。夕夏の取り合い、負けないからな」


椎名の脳裏には、美しいひな人形たちの姿がいつまでも残っていた。


2014.2.20


Happy Doll Festival!