こんなことでも考えてないと、違うことが頭を支配しそうだったから。


後ろでお風呂から出た女が、髪の毛を乾かしながら鼻歌をうたっていた。


名前すら、知らない。
なのに、することはしている。


お互い。
それでよかったのかもしれない。


髪の毛を乾かした女は、俺の後ろまできてそのまま抱き締めてきた。
シャンプーの匂いがふわっと香る。


「よかったよ、ありがとう」


「…ああ、うん」


「ふふ」


照れてると勘違いしたのか、わからないけど上機嫌に彼女はテーブルに置いてあったカバンを持ち上げた。

中をがさごそ、探って財布を出すと中から壱万円札を二枚俺に渡した。


それから笑顔で。


「はい、どうぞ」


そう、言った。


「………………」


目の前に差し出されたそれに、ゆっくりと手を伸ばす。


それを、彼女の手から受け取って自分の胸元に近付けてまじまじと見つめた。



「…………あり、がとう」

気付けばそう呟いていた。