「…平気だから。もう、私に構わないで」
自分から振りほどいた腕が、かすかに震える。
「…はっ?」
緒方くんは、眉をひそめていた。
「こんな噂、どうってことない。おおげさだよみんな。私は平気だから」
嘘のセリフを淡々と並べて、ははっと笑ってみせる。
そんなわけない。
ほんとは、平気なんかじゃい…。
「んだよ、それ!!」
緒方くんの低い声に、ビクッとしてしまう。
怒ってる……。
当然だ。
せっかく今まで傍にいてくれたのに、私は自ら手放したんだ。
その優しさを。
「もう、一緒に帰らなくてもいいから…。
本当のこと言うと、そういうの迷惑だったんだ…」
こんなこと言いたくなかった。
嘘でも、言いたくなかった。
でもせめて、最後まで演技させて。
絶対に涙は見せない。