ボクは無我夢中で走った。
逃げ惑う人の群れが、容赦なく襲いかかる。
臭いや目印のない道と焦りがボクを苛立たせる。
走って走って、何とかおじさんちの裏手まで辿りついた。
この角を曲がれば、家だ。
ゴォッという熱風が路地を駆け抜けた。
突き当たりの民家に墜ちた飛行機が、巨大な火の海を作っていたのだ。

それはボクの家も覆っていた。

「おばあちゃん!」
中に飛び込もうと近付き、余りの痛みに悲鳴を上げた。
炎は玄関の磨りガラスを弾き飛ばし、家の内側から轟々と赤いうねりをちらつかせている。
黒煙で前が見えない。
木が燃える。
桜が、金木犀が、庭が燃える。
ボクはもう一度体を跳ね上げた。
玄関を通って庭にでる。
濃いガスに鼻と喉がひりつく。
家はほとんど燃えていた。
焼け落ちた障子の向こうに人の気配はなかった。
いない。
避難したみたいだ。
探そう!
わざと見ないようにしていた光景が目の端をよぎった。
真っ黒な庭。
跡形もない、縁側。

外に出て、人の群れを追った。
探した。
探し続けた。

長い時が過ぎて、町が静かに沈み始めた頃、ボクは再び戻ってきた。