俺、守藤悠真と
安海尚斗先輩は
恋人同士だ。

名前の通り、
二人共男だし
告白は年下の俺からで
世間では
認められていない。

だが、そんなことは
どうでもいいことだ。

俺は先輩が好きで
先輩も俺を好きだって
言ってくれたことに
意義がある。

『悠真、
昼飯買いに行くぞ』

考え事してたら
いつの間にか
午前の授業が
終わっていた。

『今行きます』

四時間目で
使った教科書や
ノートを机に押し込み
財布と携帯を持って
先輩が待ってる
廊下に急いだ。

『待たせちゃって
すみません……』

そんなに
待ってねぇよと
言った先輩は
本当に男前だ。

二歳年上の
尚斗先輩は
来年の春
卒業してしまう……

浮気なんて
しないと分かってるけど
先輩は恰好イイから
大学でもモテモテに
なるんだろうと
想像するだけで
独占欲が出てくる。

『はぁ~、
ボケっとしてんな
学食着いたぞ』

うちの学校、
飯は美味いんだよな。

『お前、何食うんだ?』

そう聞いた先輩に
いいことを思いついた。

『決めて
なかったですけど
久々に此処で
食べて行きましょう』

名案とばかりに
提案すると
今、金欠なんだけどと
不機嫌そうに返された。

『わかりました、
奢るんで好きなもの
頼んで下さい』

こう言えば、
先輩が断れないのを
知ってて俺は言っている。

『しょうがねぇなぁ
マジで奢れよ』

ほら、やっぱり
断らなかった。

『勿論ですよ』

俺たちが席を
探していると
遠くから呼ばれた。

「守藤君、安海君」

呼んだのは、
担任の空花先生だった。

『先生も此処で
食べてたんですね』

クラス担任の空花先生は
俺たちの味方で
応援してくれている。

ただし、
一つだけ条件付きで……

彼女は所謂、〔腐女子〕
という特殊な人だ。

つまり、
条件というのは
俺たちのあれこれを
教えることだ。

空花先生と
話してると
隣に居た先輩が
少し遠くを見て
眉間に皺(しわ)を
寄せ誰かを
睨めつけていた。

視線の先を辿ると
そこには先輩の
クラス担任の
段上先生が居た。

「安海君、
怖い顔して
どうしたの?」

空花先生も
気付いたみたいだ。

『いえ、何でもないです』

空花先生……
いや、 莉央 ちゃんと
話す時は、
俺も先輩も
学校では敬語だけど
校外では、
タメ語だったりする。

呼び方は
俺が【莉央ちゃん】
【彩葉さん】【架凜さん】
【尚先輩、先輩】【尚】

先輩は【莉央さん】
【彩葉さん】【母さん】
【悠真】

莉央ちゃんは
【彩葉】【悠真君】
【尚斗君】【架凜さん】

彩葉さんは【莉央】
【悠君】【尚君】
【架凜さん】

架凜さんは【尚斗】
【悠真君】【莉央ちゃん】
【彩葉ちゃん】

まぁ、こんな感じだ。

架凜さんは
毎週末家に行く
俺たちを
怒ることも
咎めることもせずに
何時も「いらっしゃい」
と出迎えてくれる。

そして、
俺たちの関係を
応援してくれている。

「悠真君、
莉央ちゃん、彩葉ちゃん
今週もいらっしゃい」

毎週ではないが
泊まって行く時もあり
架凜さんは何も
言ってくれないから
本当は嫌なのか
どうかわからない……

それを先輩に
言ったら
「大丈夫だろ、母さんは
嫌なら嫌って
はっきり言うんだから」と
軽く流されてしまった。

そんな話しをした
二週間後の今日、
俺たちはまた
安海家に来ている。

昼ちょっと過ぎに
行った俺たちに
架凜さんは
「尚斗と二人も
寂しいから皆で食べましょう」
と昼食を用意してくれた。

皆で
「いただきます」を
して食べ始めた。

「今週は泊まってく?」

架凜さんが
食後の休憩中に
お茶を配りながら
訊いてきた。

『あんまり
泊まってばかりだと
架凜さんが
大変じゃないですか?』

先輩は
ああ言ってたけど、
やっぱり、
泊まってばかりだと
迷惑な気がする。

「あら、
そんなこと
気にしてたの?」

ニコニコして、
俺の頭を
ワシャワシャと掻き回した。

『ゎぁ、架凜さん
やめて下さいよ』

苦笑いで言うと
頭からは
手を離してくれたけど
その後直ぐに、
ギュウっと抱きしめられた。

「私はね、
毎週、皆が
来てくれるのを
楽しみにしてるのよ」

架凜さんは、
俺を抱きしめたまま
ポツリポツリと
話し出した。

何時も先輩と
二人っきりで
つまんないこと
毎週俺たちが
来るのを
楽しみにしていること
泊まって行く日は
嬉しいこと
嫌なら嫌と
言ってると
教えてくれた。

顔を見れば
それが
本心なのかは
ちゃんと分かる。

先輩は自分の母親に
抱きしめられてる
俺を見て言った。

「だから
言っただろ?」と。

したり顔で言った。