次の日から、あたしはいつも通りに振る舞った。


何も気にしていないように。蒼ちゃんは気にしなくていいのだと伝えるように。


蒼ちゃんもあの夜のことは何も言ってこなかった。


一緒に暮らしているとはいえ、あたし達はただの幼なじみであって恋人ではない。


いくらあたしが蒼ちゃんを男と思おうが、仮に蒼ちゃんがあたしを女と思っていようが、あたし達は幼なじみという前提のもとにある。それを壊してはならない。


それがいつのまにかあたし達の暗黙の了解になっていた。


傍から見れば、あたしと蒼ちゃんは以前と変わらないように見えただろう。


でも、何かが違うことをお互い気付いていた。


以前ならば全く気にならなかった、会話が途切れてからの沈黙がやけに重く感じた。


他愛のない会話がなんだかよそよそしいものになっていた。


いつも蒼ちゃんとはどんな会話をしていたっけ?


いちいちそんなことを考えなければいけなくなっていた。


「ともー、ただいまあ」


蒼ちゃんは夕飯を作っているあたしに抱き着かなくなった。


代わりにパーカーのフードを被せてくる。


「今日はほうれん草としめじのおひたし」

「えー、ほうれん草だけでいいじゃーん」

「蒼ちゃんの分のアイスもらっていいの?」

「ちぇー。わかったよお」


後ろで、あたしに手を伸ばしかけて慌てて手を引っ込めて、ぎこちない笑顔を浮かべている蒼ちゃんにあたしは気づいていた。


どうしてこうなってしまったのだろうか。