「なー、天斗っ!」


昼休み。今日もいつもの屋上でご飯を食べ終えると、友香里が彼に声をかける。


「何やねん」

「ブレザーのボタンがとれたっ!」


にへへっと頭を掻く友香里に弁当箱をしまう手をピタッと停止させた天斗。

そして彼は彼女のその言葉に目をカッと見開き、ビシッと人差し指を友香里に突き出した。


「…え、天斗?」


キョトンとしている彼女をキッと睨みつける天斗は声を上げる。


「何やってんねんっ! 早よう脱ぎぃっ!」

「は、はいっ!」


凄い剣幕の天斗に思わず敬語になった友香里は急いで黒いブレザーを脱ぐと彼に手渡す。

それを文系とは考えられない早さで天斗は奪い取ると、どこから用意したのか裁縫道具を一瞬で準備した。

ポカンと呆けている友香里を放っておいて脇目もふらずに縫う作業にとりかかる。


「……目が光ってる」


自分がしでかした事とはいえ、ギラギラと輝いている天斗に友香里は苦笑した。

それから数十秒後、物凄いスピードで裁縫を終わらせた天斗は彼女にブレザーを返す。


「…うわー、すげぇっ! 完璧だっ!」


ブレザーを広げてすげぇすげぇと褒める友香里の頭をグシャグシャに撫でる。


「うおっ!」

「……次からはもっと早く言うんやで」


ハーッと一息ついた天斗に友香里は無邪気に笑って頷く。


「了解したぜっ、オカンっ!」

「……」

「っ、いたたたっ!」


天斗は無言で撫でていた手に力を込めたのだった。


【END】