ある公立高校の屋上には、雲ひとつない空の中、ひとりの男の子がふたつのお弁当とともに待機していた。


「……まだかいな」


ふぅ、と息を吐きながら独り言を呟くのは、この高校の二年生、天斗(テント)。

今は昼休み。彼以外にもちらほらとお弁当をひろげて楽しそうに話す生徒がいる。これもいつもの光景。


そして。


「わりーっ! 天斗っ!遅れたっ!」


天斗の彼女、友香里(ユカリ)がニシシと白い歯を光らせながら屋上の扉を開け駆け寄るこの姿もまた、いつもの光景だ。


「…やっと来たんか」

「あー、悪い」


はぁ、とため息をつく彼に目を泳がせてポリポリと頬を掻く彼女の短い黒髪が風に軽く流される。


「……で? 今日は何で遅れたん?」

「遅刻した罰受けてた」


悪いといいつつ、へらっと笑みを浮かべる友香里は毎回のごとく反省していない。


「………明日から朝むかい行くわ」

「おーっ、助かるっ!」


キラキラと爽やかに笑う友香里をちらりと見ると、彼女は制服なのにも関わらず胡座をかいている。それに眉を寄せた天斗。


「友香里、胡座かくんやめ」

「えー」

「えーやない」

「うー」

「うーでもない」

「えっと…、うぉー」

「…」


天斗はもうそれには返さず、友香里に顔を近づけると囁いた。