耕助の言葉が蘇り、瀬奈は微かな憤りと、同時に自分のの無知さを痛感した。もっと、この病について勉強しなくてはならない。
「ん……」
突然、ベッドの中で快が小さく声をあげる。瀬奈は慌ててパソコンの電源を落とすと、ベッドに戻った。
「何……してたんだ?」
「あ、ちょっと調べもの」
快の問いにそう答え、瀬奈は彼の傍らに滑り込んだ。
「瀬奈」
まるで腕枕をせがむように、快が瀬奈の肩に頭を乗せ、胴体に腕を回してくる。瀬奈は頬に彼の髪の感触を受けながら腕を回して彼を腕枕すると、そっと彼の髪を撫でた。
――あたしにはこんな事しかできない。
何もできないと言う無力感がじわじわと、さざ波のように胸に押し寄せては引いて行く。
絶対にあたしが快を守る!!
そう決意を新たにしながら、瀬奈はゆっくり目を閉じた。
「すみませんでした」
翌朝、登校前に快を家に送り届けた瀬奈は、出迎えた紗織に深々と頭を下げた。
「いいのよ。瀬奈ちゃんのとこへ行ったって判ってたから」
寛大なのか信用されているのか、意外にも紗織はそう言って瀬奈を優しく見た。
「昨日のお父さんの言葉を快がどう感じたか、夕べあの子が黙って家を出て行った時点で判ったの……。親なのに情けないわ……」
「おばさん……」
「瀬奈ちゃん」
驚く瀬奈を紗織が真っ直ぐ見つめる。瀬奈はドキリとした。
「快をお願いね、あの子には瀬奈ちゃんしかいない。きっとわたしたちより、瀬奈ちゃんを信用してるから」
「……」
そう言いながら、紗織が悲しそうに目を伏せる。そこには"親なのに何もできない"という、無言のメッセージが現れていた。
「本当にすみませんでした」
いくら両家公認の仲とは言え、まだ未成年の二人が無断で堂々と夜を共にした事は決して褒められる事ではない。この事が学校や世間に知れでもしたら、責められて批判されるのは親である耕助や紗織たちなのだ。
――おじさんにも、きちんと謝ろう。
瀬奈はもう一度頭を下げると、神童家を出、学校へ向かった。
「快」