「赤い人」を見た者は、決して振り返ってはならない……か。


あれ? もしかして、今、私は心配されたのかな?


そうだとしたら、私なんかを気にかけるなんて変なやつ。


クラスメイトからは無視されていて、誰も私の心配なんてしないのに。


「『赤い人』かぁ……放課後にひとりでいると現れるんだよね」


携帯電話を開いて時間を確認すると、もう17時を回っていた。


家に帰ってもお父さんは「勉強しろ」の一点張り、お母さんは、妹を可愛がっていて私には無関心。


学校にもうしばらくいたかったけど……赤く染まった空を見つめて、私は席を立った。


伊勢の口から「赤い人」なんて言葉が出てくるなんて、思いもよらなかった。


怪談話は嫌いじゃない。


むしろ、テレビの特番でホラー特集なんかがあると、録画までするほど好きだ。


だけど「赤い人」なんて、誰かが面白半分で広めた噂だと思う。


大方、先生達が、用事もないのにいつまでも残るなって意味を込めて作った怪談じゃないの?


そんな事を考えながら教室を出て、階段の方に向かって歩いていた時、私の目にそれは映った。








生産棟の一番奥の廊下……そこを横切る大柄な生徒。







あれは、伊勢?


まだ「明日香」って人を探してるんだ。


誰だか分からないけど、あそこまで必死に探してもらえる「明日香」って人は幸せだな。


きっと私なんて……いなくなっても誰も探してくれないと思うから。