事故の衝撃で壊れた携帯電話は、その機能を失っていた。


それでも……


あたしは宏人からの電話を待っていた。


鳴らないことは、分かっているのに。

それでもどこかに宏人がいるんじゃないかって・・・

いつものように電話越しに、「由希」と名前を呼んでくれる。

「いつまで部屋にこもってるんだ」とあたしを迎えに来てくれる。

床に座りながら、何日も、そうやって宏人からの連絡を待ち続けた。


でも―――


現実は恐ろしいほどに残酷だった。

いくら待っても、どんなに泣いても、宏人が現れることはなかった。


ただ夢のなかで、つかめない幻がゆらゆらと陽炎のように揺れているだけだった。