「喧嘩したり、落ち込んだり、寂しくなった時には、ここに来てまた始めよう」


立ち上がって微笑む宏人が朱色に染まる。


あたしも立ち上がり、宏人と同じ色に染まるその隣りに二歩進んだ。


「由希・・・・好きだよ」

「あたしも・・・大好きよ」


抱きしめられた宏人の胸から、どこか懐かしい秋の香りがした。


背中にまわった腕の力強さに安心して、涙が流れた。


親指で優しく涙をぬぐってくれる、この人がそばにいてくれれば、きっと大丈夫――


――そう思った。



オレンジの空が毛布のように辺りを包み込み、ふたりも刻んだ名前もオレンジに溶けていく―――


重なるふたりの影が、落ち葉のじゅうたんの上にくっきりと刻まれる。


そんな秋の深い夕暮れだった。