例えば今、さくらに自らを殺してくれと懇願しても、さくらはきっと聞き入れないだろう。

さくらは、まだ紀一を愛していない。

愛という感情を、さくらはまだ知らないからだ。

だからさくらが紀一を殺すには、まず紀一を愛する必要がある。

愛して愛して、そして紀一はさくらを裏切る。

そしてその時に、さくらに自分を殺させる。



そうしてさくらも、一生紀一を忘れなければいい。

そうしてはじめて、さくらのすべては紀一の物になる。

「俺が枝だけになっても…」

暗い部屋で、呟いた。
あの時の、愛の言葉。

今は意味が、少しだけわかる。