考える程に気持ちが落ち込んでゆく。まるで闇の底なし沼にいるような、惨めな気分だった。

 勉強に部活、やりたい事や、やらなきゃならない事がたくさんあるのにできない。そして、瀬奈。彼女の事も、頭の片隅にちゃんと存在していた。

 もうどれくらい、彼女の顔を見ていないだろう。最後に会ったのが、果てしなく遠くに思えた。

 嫌いになった訳じゃないので会いたい気持ちはある。が、自分以外の誰かと二人になると、また気分が悪くなりそうで怖かった。今の快には、"一人でいる事"が一番安全で安心でき、寂しいという感情はそこにはなく、安心感の方が強かった。

 ――ごめん……。

 それ以上の事はもう考えられなかった。考えようとしても回路が働かない。彼はただひたすら、横になり続けた。



【今夜はいません。テーブルの上に、夕飯用意しておきます。】

 翌日の夕方、部活を終えた瀬奈は、携帯電話に届いていた愛美からのメールを見て、呆れたように溜め息をついた。

「はいはい、二人ともお好きにどーぞ」

 最近、彼氏と同棲を始めた姉とは、もう何週間も顔も合わせていなければ話もしていない。たまにメールが届くが瀬奈からは返さず無視している。一方愛美も、瀬奈が高校に入ってからは彼氏の家に泊まりに行く機会も増え、家族三人で食卓を囲む事は殆どなくなっていた。しかし、そんな殺伐とした家族の関係を、瀬奈は全く気にしないどころか、正直どうでもよく、よって何の不満もなく、逆に一人で好き勝手できると喜んでいた。

 ――姉貴はともかく、お母さんには幸せになってほしい。

 奔放な姉はともかく、愛美に対しては少しだが、そんな気持ちがある。だが、干渉する気は全くなく、自分も干渉されたくなかった。

 さて、何をしようか? 今夜は一人と判り、少し弾んだ気持ちで家への道を曲がると、門の側で快がうずくまっているのが見え、瀬奈は思わず足を止めた。途端に、弾んでいた気持ちが一気に吹っ飛ぶ。

「快」

 急いで駆け寄ると、快が弱々しく瀬奈を見上げた。「……お帰り」

「……いつからここに?」

 瀬奈の質問には答えず、快がじっと彼女を見つめてくる。問いかけながら瀬奈はある事に気付き、唾を飲み込んでいた。

 ――快、痩せた……。

 もう、触れなくても見ただけで判るほど痩せた快の姿が、そこにあった。その現実は、瀬奈の胸を重く締め付け、うつむかせた。

「入って」彼女は鍵を開け、彼を中に入れた。

「何か、家ん中、すっきりしたな」