「最初はさ、体調が悪いんだって、寛容に対処してたけど、もう二週間以上こうだよ。メールも電話もないし、誘ったってドタキャンだし、きっとあたしの事が嫌になったんだよ」
「瀬奈……」
「だって、医者は"何でもない"って言ったんだよ」
「でも、それはおかしいって、瀬奈も神童くんも思ってんでしょう?」
「そーだけどさ……」
瀬奈は菖蒲の言葉に口をつぐみ、唐揚げにグサリと箸を突き刺した。菖蒲はジュースを脇に置くと、そんな瀬奈をじっと見て言った。
「嫌いなら嫌いとか、別れたようって言うんじゃない? 神童くん」
「……自然消滅、狙ってんのかも……」
箸を突き刺したままの唐揚げを睨み付けながらくさる瀬奈に、菖蒲は遂に溜め息をついた。
「もうっ! なら、瀬奈からフっちゃえば? 神童くんからフラれたら後々色々辛いでしょ! だから、そのグジグジと一緒に神童くんの事も捨てちゃえ!」
「な……!」
予想もしない菖蒲の言葉に、瀬奈は驚いて顔を上げ、目を丸くした。「捨てるって……」
「だって今のあんた、後ろ向きなんだもん! もっとポジティブになんなよ!」
「菖蒲……」
「あたしから見たって、神童くんはおかしーよ! 瀬奈が一番判ってんでしょう?」
菖蒲の言葉が瀬奈の胸にグサリと突き刺さる。そうだ、菖蒲の言う通り、その事は瀬奈自身が一番、自覚していた。
「そー……だね、ごめん」
唐揚げから箸を抜き、瀬奈は菖蒲に頭を下げた。「寂しくてつい……」
「瀬奈は神童くんが大好きだもんね」
菖蒲はそう言うと、脇に置いていたジュースに手を伸ばした。
「でも、お医者さんに"何でもない"って言われちゃうと、後はもう、どーしようもないね。だけど、神童くんやっぱ、おかしーよね」
「……うん」
菖蒲の冷静な分析に瀬奈はうなずいた。
快晴の空を見上げ、快を想う。快は今日も、自宅で寝ているのだろう。朝、登校する時に見上げた部屋の窓には、カーテンが閉められていた。
瀬奈の予想通り、その頃、快は自室のベッドで横になっていた。テンションが全く上がらない。いや、上がるどころか日々、下項線を辿っている。
頑張れ! そう気持ちを奮い起こそうとするが、心と身体がまるで別物のように動かない。繋がっているはずなのに、全く繋がっていない感じが気持ち悪く、重苦しかった。
本当に自分は一体、どうしてしまったのだろうか? 全く言う事を聞かない身体が恨めしい。
――俺、駄目だ……。