「バカみたいね。
女30が、意地張っちゃって」


「うっ……そんなハッキリ言わないでよ」


「だってそうでしょ?
女が好きな男の前で可愛いげをなくしたら、もう終わり」


「終わり……」


「そうよ、愛しのタクちゃんは、可愛い紅のもの!」


紅のもの。
ああ、何て忌々しい響きだろう。
噛み砕いてやりたい、バリバリと。

私は憎き紅の代わりに、シャキシャキのレタスを頬張る。



「どうして聞かなかったの?
その、紅って子と、何かあるのかって」


「そんなこと……素直に聞けてたら、今、こうなってない」


「ま、そだわね」



店内ではクラシックが流れている。
そっち系には詳しくないので、誰が作曲してどんなオーケストラが演奏しているのか全く分からないけれど、ティンパニの音が軽快な、素敵な音楽だった。

目の前には、ありがちな表現だけれど、黒いビロードの上に色とりどりの宝石を散りばめたような夜景。
ムードもへったくれもない私だって、うっとりする。

確かに。
こんな所で静かに目配せし合いながら食事ができたら、10年のキャリアでも多少のロマンスは生まれるかもしれない。
理想だなあ。
こういう所で、婚約指輪とかもらうの。
夜景より綺麗なダイヤモンド。