しばらく沈黙があってから、拓はスッと立ち上がった。
ガタン、とイスが大きな音を立てて、私はハッと我に返る。
……あれ。
私達、何で別れ話なんかしてるんだろう。
「お前の言いたいことはわかったよ。
悪かったな。
甲斐性のない男で」
吐き捨てるような拓の台詞。
甲斐性のない男?
そんな風に思ったことなんて一度もないけど。
私の言いたいこと、本当に分かってる?
「お望み通り、オレ、もうここには、来ないから」
そう言い捨てて、拓は私に背を向ける。
オレ、モウココニハ、コナイカラ?
って、何でそんなことになるんだろう。
私、そんなこと、望んでた?
「いや、あの……」
違う。
違うのに、言葉が続かない。
ドスドスドス、と、大きな足音を立てて、拓がリビングから出て行く。
私と母親と……いつも拓がいた、このリビング。
ギシギシ、ギシ。
拓が歩く度に、床が痛々しく軋む。
行っちゃうの?
ここにはもう来ないの?
本当に?
私の代わりに、この家が叫んでくれているみたいに。
バタン。
それから、重々しく閉まるドアの音。
呆然と立ち尽くした私は、冷め始めたお味噌汁を手に。
何もできずに、いつまでもそうしているしかなかった。
ただいつまでも。
ぽっかりと穴が空いたような無風の空気が、果てしなく続いていくような気がしていた。