「……考えとくよ」

 考えるのが面倒になり、ひとまずその場しのぎの返事をした後、快が口を閉じた。

 ――疲れた。少し休んでからまた考えよう。

 静かになった部屋で瀬奈も黙り込む。空気が重くなる中、快は腕を伸ばし、瀬奈を自分の方へ引き寄せ、黙って彼女を抱き締めた。

 ずっと側にいて、それが当たり前になっている。普段、瀬奈に対してあまりありがたみを感じない。が、それでも快には、彼女が大切だった。



「快」

 瀬奈が帰ってしばらくした後、大学から戻って来た爽が、珍しく快の部屋に入って来た。

「なあ、今日、病院行って来たんだろ?」

「うん」

「どーだったんだ?」

「……異常なし」

「そっか……」

 快の言葉に爽は考え込むように腕組みし、側の壁にもたれた後、ゆっくり口を開いた。

「内科的異常がないなら、心療内科……行ったらどーだ?」

「え……?」

 兄の言葉に快が目を丸くする。瀬奈ばかりじゃなく、兄からもそう言われた事で、少し、気持ちが動いた。

「ずっと調子悪そうだし、飯も食えねーだろ? 一度行って来いよ。何でもないならないで、それでいーんだし」

「……」

『違うなら違うでいーんだから』

 爽の言葉に重なるように、瀬奈の言葉が蘇る。

「うん……」

 快はゆっくりうなずき、起き上がった。

 皆が自分を心配している。重たい体と思考の中、ゆっくり心が前へ傾き出す。

 ――行こうかな。

 自分を心配そうに見つめる瀬奈の顔が頭に浮かんだ。

 ――行ってみよう。

 抵抗が全くないと言えば嘘になるが、快は思い切って、その重い扉を開く決意をした。