「どうだったの?」
「……風邪」
「……そう」
自分の部屋に戻りベッドに横になる。静かで暗い部屋に紗織と父・耕助のこもった会話が響いてくる。内容はよく判らないが、恐らく最近の自分の事だろう。快は立ち上がると部屋を出、風呂に入るためバスルームに向かった。どんなに体が辛くても、風呂だけは欠かせない。快は家族の中で一番の風呂好きで、相当な事がない限り、風呂は欠かさなかった。
やはりもう一度病院に行って、今度は違う薬を出してもらおう。
風呂から上がり、ベッドに横になって天井を見つめながら、もう一度溜め息をつく。そこに"精神科""心療内科"という選択肢は既に消えていたが、代わりにある疑問が浮かんでいた。
――本当に風邪なんだろうか……?
思えば鼻も出ないし咳もつかない。熱もない。医師を疑うわけではないが、勧化出したら腑に落ちなくなり、快は勉強机に視線を投げた。そこには、空になった薬の袋があり、じっと見つめているうちに,何だか妙な感じに見えてきた。
――やっぱ、もっかいちゃんと診てもらおう。胃とか、何かあるかも。
快は立ち上がると薬の袋をクシャクシャに丸め、ゴミ箱に放った。
翌日の土曜日、快は再び内科医院を訪れ、もう一度医師に症状を話し、薬を飲んだが全然回復しなかった事も同時に伝えた。
「う~ん、確かに少し痩せたかな? 食欲ないのか~。なら、胃カメラしてみようか」
快の話を聞いた医師は前回同様、あまり深くは考えていない様子で腕組みし、ボソボソ呟いた後、そう言って快を見た。そんな医師の言葉に快は、それこそ胃がズシリと重くなる思いだった。胃カメラ。テレビのバラエティ番組で、芸人が番組の企画で人間ドッグを受け、飲んでいるのを見た事が何度かある。見るからに苦しそうな検査だが、体調に対する不安の方が先立ち、快は思い切って飲む事にした。
「じゃ、今週の金曜日に。あ、前日の夜九時以降は何も食べないで」
「……はい」
――食いたくても食えねーし。
この医師は本当に自分の話を聞き、症状を把握してくれているのだろうか? そんな不信感が一瞬頭をよぎったが、それを口にする気になれず、医師の言葉を黙って聞いた後、重い気持ちのまま、内科医院を後にした。一応、瀬奈に知らせておこうと、自宅へ戻りながら携帯電話を開いたが、電話しようとして手を止まり、結局そのまま携帯電話を閉じて鞄にしまってしまった。最近、いろんな事が面倒になってきていた。